【レポート】北海道大学・倉橋康平さん

遊佐町めじか地域振興協議会への提案書  【提案者 倉橋康平/北海道大学 水産学部】

現在、世界では水産物への需要が増加してきている(図1)。さらに、人口増加のため食糧不足が深刻化し、食料供給の大きな可能性として魚は注目されている。需要と注目の増加に応じて、継続的に魚を確保し提供できるような、持続可能な漁業の実現は未来の世代のためにも必要不可欠であると考えられ始めている。日本も例外ではなく、行政や企業が持続可能な漁業を目指して事業に取り組んでいる。しかし、その目標を達成するには様々な課題が存在している。その中でも特に大きいのが漁業従事者の後継者不足である。魚を育てる人、魚を獲る人がいなければ魚を継続して供給することはできない。今回のスタディツアーに参加して、遊佐町の鮭漁業生産組合でも後継者不足が非常に深刻な問題であることがわかった。

図 1 世界の1人1年当たり食用魚介類消費量の推移(粗食量)
引用:水産庁 水産白書
資料:FAO「FAOSTAT Food Balance Sheets」(日本以外の国)及び農林水産省「祝量需給表」(日本)

後継者不足の原因は日本人が持つ一次産業への先入観である。その先入観は「きつい・汚い・危険」という、3Kと呼ばれるものである。このイメージの払拭により、漁業者を目指す人が増え、後継者不足の問題も解決できる。つまり、漁業の魅力を若者に発信することが持続可能な漁業の実現につながる。しかし、3Kのイメージが定着してしまった大人(高校生以上)の考えを変えることは非常に難しく、長い時間と大きな費用がかかることが予測される。そのため、私は対象をまだ偏見を持たない小学生に定め、漁業の大切さや楽しみを伝えることが問題を解決する最良の方法だと考えた。小学生がたくさんの情報を得るのは小学校である。そのため、能動的に児童自らが応募し参加するプログラムでは参加率が悪いと予想されるので、遊佐町鮭漁業生産組合と地域の小学校が協力し、学校の授業の一部としてサケ放流事業について発信することが最良である。私は授業を三段階にわけてサケ放流事業を小学生に伝え、幼いころから漁業に関心を持ってもらい、漁業従事者を将来の選択肢の一つにしてもらう方法を提案する。

 一段階目はスタディツアーの午前中に行われていた実際にサケの放流事業を見て、体験してもらう行事を開催することである(コロナが終息した後かコロナ対策を十分にとっている状況を想定している)。遠足や修学旅行の様に学校行事の一環として授業計画に組み込んでもらうことにより、高い参加率が見込まれ、魅力発信の効果は高い。この段階の目的は、児童に直接サケを見てもらうことによりサケに興味を持ち、積極的に学ぶ姿勢になってもらうことと、自分たちの地元で行われているサケ放流事業を認識してもらうことである。さらに、このように子供のころに自然と触れ合う経験をすると環境配慮への意識、行動が促されることも分かっている。この効果は持続可能な漁業の実現に大きなプラスになる。2010年に栃木県日光市で行われた「内水面漁業者が小学生を対象に川で行う親水活動の教育効果」についてのアンケートでは、親水活動は内水面漁業への興味・関心、自然や生き物への興味・関心、人間の精神的な成長では教育的効果があると肯定的に答えた回答が70%を超えている。この結果から、多くの人々は内水面漁業者が行う親水活動は子供の成長にプラスの効果をもたらすと考えていることがわかる。これらの事より、学校、保護者の同意も得やすく、開催できる可能性も高い。しかし、このアンケートでは担い手になることや地域への定住意欲に関して肯定的な回答をした人は50%を下回る結果となっている。つまり、内水面漁業を実際に体験することは、興味関心を惹くことにおいては大きな効果を発揮するが、児童の将来に対する影響は小さいことがわかった。

 二段階目は、学校の授業の一コマとして組合が児童に対して、活動を伝えることである。まず、日本は世界で6番目に大きい排他的経済水域を持ち、世界有数の漁業場を持つことを説明する。このことにより、日本の漁業に可能性があることを示す。次に、日本の漁業の現状を伝え、持続可能な漁業がこれからの日本の漁業にどれほど大切かを伝える。さらに、サケの生態からサケが持つ持続可能性を伝え、遊佐町で行われているサケ放流事業が持続可能な漁業に大きく貢献していることを伝える。第1段階によって、サケへの関心が高まってきているため、授業も積極的な姿勢で聴いてくれると予想される。この授業によって、漁業の意義とサケ放流事業が世界的にも重要であることを理解してもらうことが、漁業のイメージ改善につながる。1段階目では不足していた、担い手・地域への定住意識の上昇にもつながる。

 三段階目は遊佐町でとれたいくらやサケを給食として、食べてもらうことである。実際に味わうことによりサケのおいしさを知ってもらうことは、漁業への関心を高めることと購買意欲の向上につながる。1段階目で見たサケが調理されて給食として出てくるため、自然や生き物を大切にする意識を芽生えさせる教育的効果もある。水産庁が公開している水産白書によると、日本における水産物消費量は年々減少してきている(図2)。その原因は消費者の食に対する簡便化志向が増加していることにある。女性の社会進出や共働き世代の増加に伴い、調理時間の短縮傾向が増加してきているためである(図3)。魚は豚・牛・鳥に比べると調理に手間と時間がかかるため、これらの世代に敬遠される傾向にある。親の水産物消費量が減り、子どもたちも魚を食べる頻度が低下している。この傾向を踏まえると、親の食傾向に左右されない給食に、サケ・イクラを導入することは、児童に魚を食べることを習慣化させることができる。魚と触れ合う時間が長ければ長い程、水産業に興味を持つ可能性は上がり、漁業従事者に対する先入観は少なくなる。加えて、子どもたちが魚に興味を持てば親も興味を持つようになり、魚の消費量は増えることが予想される。この段階でめじかを給食に組み込むことができればめじかの知名度の上昇にもつながる。

図 2 食用魚介類の国内消費仕向量及び 1人1年当たりの消費量の変化
引用:水産庁 水産白書
資料:農林水産省「食糧需給表」


図 3 消費者の現在の食の志向(上位)の推移
引用:水産庁 水産白書
資料:(株)日本政策金融公庫 農林水産事業本部「食の志向調査」(インターネットによるアンケートの調査、全国の20~60歳代の男女2,000人(男女各1,000人)、食の志向を2つまで回答)に基づき水産庁で作成

現在、世界で議論されている地球温暖化対策や持続可能な社会を実現するために最も重要なことは人々がそれらの事柄に知識・関心を持ち、企業・政府の行いを監視・評価することである。このことより、上記で提案した3段階により小学生に漁業に興味・関心を持ってもらうことは、持続可能な漁業を実現するためにとても大きな意味を持つ。さらに、幼いころから漁業と触れ合うことにより、後継者になりたいと思う可能性は増加し、遊佐町での後継者不足問題の解決にもつながる。このプログラムではSNS発信の様に、低コスト・短期間で多くの人にサケや遊佐町の鮭事業のことを伝えることはできないが、長期的に水産業への理解・関心を上げ、漁業従事者のイメージ改善、後継者増加につながる。遊佐町でサケ・めじか知名度、漁業の魅力を伝えることに成功すれば、範囲を拡大し、さらなる効果UPも見込める。

(参考資料)・内水面業者が小学生を対象に川で行う親水活動の教育効果/阿部信一郎・桟敷孝治・玉置泰司・安房田智司・井口恵一郎/2013/陸水学雑誌/陸水学雑誌第74巻3号 165-171 (jst.go.jp)/最終閲覧2021.10.27
(引用)・水産白書(令和2年度)/水産庁/水産白書:水産庁 (maff.go.jp)/最終閲覧2021.10.27


小学生への内水面漁業の教育効果は確かに大きい。地元の自然や生き物への興味を若いうちに醸成することは、自然環境を守ることの価値観を育てると考えます。遊佐町も過疎化が進み2年後統合小学校となるので、私たち鮭組合が協力して出前講座を積極的に開きたいと考えていきます。

当組合では地元の小学校をはじめ、隣の酒田市の小学校、水産高校の体験授業・先生方の研修の受け入れや、地元の鮭を使った親子での「寒風干し作り」や「鮭とば作り」を行なっています。
また、地元小学校の子どもたちは水槽に生まれる直前の卵を入れ、観察・餌やり・放流までの飼育体験をしています。

将来の人工増加による食糧不足が考えられ水産業からの供給が必要とのお考えをお聞きできました。世界では、養殖業が盛んになっているようですが餌の確保などが課題になってきていますね。私達の鮭の人工孵化事業はとても遣り甲斐のある仕事と考えていますが、最大の課題は担い手問題です。原因は「3K」等とは違った意味で、日本は豊かになり働く場はいくらでも選択できるようになったことも一因だと思います。その為の小学生への取り組みなど、興味深く拝見させていただきました。
鮭資源は全国的にみると極端に少なくなっていますが、私達の所は貴重な特徴を持ち合わせた鮭資源の維持ができ、しかも収入も確保できていると考えています。
これをこの先も持続させていきたいと考え、平成28年北海道オホーツク地方北見さけます増殖事業協会のご指導の元で一大決心をし、最新の施設に作り替えた事で一層の成果も見えはじめています。この施設は少なくとも50年は大丈夫ですが、企画立案、そして発信の出来る若い柔軟な考えを持った皆さんに引き継ぎたいと考えているのです。

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